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6割のフィクションと2割の嘘1割の真実で構成されております。

飛行機の舞

飛行機が苦手だった。

車であれば道路がある。電車や新幹線なら線路がある。

多少揺れた程度なら地面があるので気にはならない。

 

その点、飛行機は何もない。

正確には空気があるのだろうが、そんなことを言われても困る。

揺れたが最後、真っ逆さまでもおかしくはないのだ。

 

とは言え、事故率で考えると最も安全な移動手段らしい。

合理的に考えれば、苦手意識よりも早く着く方が良く、利用しない手はない。

その為、今回も飛行機に乗り込むことになった。

 

飛行機が揺れるのは飛び立って軌道にのるまでと着地の部分だ。

そこ以外は気候が悪くない限りは揺れることは少ない。

 

搭乗後は、イヤホンをひじ掛けに差し込み機内のラジオを聴き始める。

大抵は落語を聞くのだが、飛行機が飛び立つまでは色々アナウンスが割り込むので

ひとまずクラシックを流していた。

離陸直後の揺れをごまかす為、本を読み始める。

 

今回はあまり揺れることはなく、無事軌道にのった。

後は着陸までゆっくり過ごせばよい、本を読みながらのんびりしていると

いつの間にか寝てしまった。

 

気が付けば飛行機は着陸態勢に入っていた。

 

離陸と違い、着陸時は大きく揺れるため本を読むのは難しい。

私は窓から地面までの距離を確かめる。

飛行機は幅の広い階段から一段ずつ落ちるように揺れる。

そのたびにヒヤッとし、手持っている本が湿っていく。

 

ガタン

 

大きく飛行機が揺れ、エンジンが逆噴射するような音がする。

 

無事に着陸した。

 

普段はそこまで狼狽することは無いのだが、今日は一段と緊迫感があった。

一息ついて、降りる準備をする。

 

結局、最後までクラシックを聴いていたなと思いイヤホンを外す。

丁度、ラジオパーソナリティが曲の説明をしていた。

 

ハチャトゥリアン作曲『剣の舞』でした」