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6割のフィクションと2割の嘘1割の真実で構成されております。

無意識の選択

右だったか、左だったか。それが重要だった。自身の感覚などあてにならないだろう。

気のせいか背筋に悪寒が走り、お腹に違和感を感じる。

過ぎてしまった事は仕方ない。どちらであろうとやり直すことは出来ないのだから。

それでも何かヒントはないかと、私は今日の事を思い出す。

 

私は普段、珈琲を飲んでいる。最近は少し凝ってインスタントではなく、ドリップ珈琲で飲んでいたりする。しかし、休日は夜更かししていることもあり、朝から珈琲を淹れるのも面倒で手っ取り早くエナジードリンクを飲む時もある。先週も丁度エナジードリンクを飲んでいたので週に1回ほどは飲んでいる事になる。

 一本を一日かけて飲む事にしているので、当然午後には炭酸も抜けぬるくなっているのであまり美味しくはない。都度冷やして飲む時だけ出せばいいと言うのは、その通りだが私は生活におけるすべての行動を正しく選択している訳では無い。つまり、あまり重要な事ではないのだ。そもそも珈琲の妥協で飲んでいるのだから…まぁいいか。

 

 その日も、私はぬるいエナジードリンクを飲みながらキッチンで晩御飯を作っていた。ピーマンを切って一緒に炒めるだけの青椒肉絲である。ピーマンだけでは量が足りないと余っていたキャベツを細かく刻みフライパンに放り込む。元々起こりうる物なのか、追加したキャベツのせいなのか、はたまたキャベツに付着した水分のせいなのか、大量に油が飛び跳ね、手が火傷しそうなのを我慢しながらプライパンをしきりに振り回した。

パッケージの裏に書いてある「ソースを入れて30秒炒める」を忠実に守り切り、ガスコンロの火を止めた私は、満足げにエナジードリンクを飲み一息ついた。やはり、ぬるくて美味しくはない。青椒肉絲を皿に盛り着けテーブルへと運ぶ。適当な動画配信を見ながら夕食とする。

 動画を見ながらの食事は良くないと聞いたことがあるが、一人暮らしで何もせずご飯を食べる事の方がいい事とはどうしても思えない。キャベツで量を増したので味が薄いかと思ったが流石は中華料理、問題なく美味しかった。

 食事も終わり、寝るまで何をしようかと考えながらお皿を片付ける。と言ってもキッチンにお皿を置くだけだ。大抵は寝る前にお皿を洗う事にしている。毎食ごとに使うのだから使う時に洗う方が早いのだ。流石に寝た後は使わないだろうし、朝一番に皿洗いをする元気はない。結果、「寝る前にまとめて」が最適解だとなっている。

 ふとエナジードリンクに目が留まった。無意識とは恐ろしい物で、キッチンに飲みかけのまま置いてあったのだ。私は家の鍵をかけたか忘れるタイプであり、リモコンをどこに置いたか覚えていないタイプなのだ。

 つまり、飲みかけだったエナジードリンクをどこに置いたかを覚えていないタイプであり、先ほど調理中に手に取ったエナジードリンクが左右どちらの物だったかも覚えていないタイプなのだ。

 

そう、私は先週も飲みかけのエナジードリンクをキッチンに置いていたのだ。