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6割のフィクションと2割の嘘1割の真実で構成されております。

思い出の匂い

思い出の匂いと言うのはありますか?

私は記憶している限りありませんでした。もちろんカレーの匂いがすればカレーを思い浮かべますし、消毒液の匂いがすれば病院が浮かびます。しかし、それに付随して思い出が思い浮かぶことはありませんでした。

 

先日、何も上手く行かなかった日に夜の散歩をしていました。遅くまでやっているスーパーが二駅行った所にあるので、歩いて行こうと思ったのです。線路沿いを歩いていると一駅行ったあたりで急に疲れが出ました。途端にやる気が無くなり引き返す事にしましたが、同じ道を行くのは癪に障るので横道に逸れ、裏道を歩くことにしました。

 居酒屋やバーなどが並んでいる道を歩いていると木が燻った様な匂いがしました。それが凄く懐かしく、少し不快だけれど何故か楽しい気持ちにもなる匂いでした。

私はしばらくそこに立ち止まり、何の記憶だったか考えていました。そう、何の匂いだったかではなく、何の記憶だったのかを思い出そうとしていたのです。

 

色々思い浮かべた末、答えに辿り着きました。

弓道でした。

大学時代、丁度今日と同じぐらいの時間まで、毎日の様に弓道の練習をしていました。

正確には弓を引くためにに使う「かけ」と言う道具の匂いだったのですが、私が思い出したのは、ああでもない、こうでもないと練習した思い出でした。

 

私にとって弓道はあまり良い思い出ではありません。弓道自体は好きですが、それを取り巻く人間関係が上手く行かず、結局最悪の形で終わることになったからです。それでも今日思い出した記憶は、みんな仲良く、ただただ上手くなる事だけを試行錯誤した楽しい思い出でした。そういえばそんな楽しい時期もあったなぁとしみじみしました。

何年かぶりに弓を引きたいと、前向きな気持ちになった気がします。